JACS 2015住宅設計コンペ「母の家」 2016_最終審査結果

出題主旨

住宅は利己的です。
限られた敷地、限られた予算のなかで最大限豊かなインテリアをつくることを目指しますから、それは当然です。
敷地の周りに塀をめぐらせて、隣にどんな利己的な家が建てられても関係なく、自分の家が守られるようにしようとします。
どんな近隣が現れるのかわからないから、それは当然です。
もし、周囲の環境に思いやりのある利他的な住宅があるとすれば、それはどのような住宅となるのでしょうか。
そして、もちろんその住宅は最大限豊かなインテリアをもってなくてはなりません。
そんな夢のような「思いやりのある戸建て住宅」を発明してください。
その発明されたあなたの「思いやりのある戸建て住宅」が、ほんとうに周囲の環境に思いやりがあるのか、集合させて検証してみたいと思います。
それが「群設計」をお願いする理由です。「思いやりのある戸建て住宅」の集合が、私たちの目指すユートピアを指し示してくれることを期待しています。(北山恒)

追加説明

今回は第10回を記念して、新しい試みを行います。
例年行ってきた第1次審査、第2次審査の他に、これと並行して「特別・群設計審査」と「特別実現採用審査」を行います。
これは今回の敷地6区画の中において、更に全体のあり方が提案されているか、を審査するものです。単独にバラバラなものが建てられては、
現代の住居群のような混乱、混沌と変わりありません。
それを、その区画で、たまたま知り合った建築家たちが、できるだけ協力し合って、「群」として或いは「集団」として良いものにしていこうとする意志に期待するものです。これは町全体に対する姿勢であり、その区画の居住者たちにとってのより良い提案でありたい、という試みです。
近年、良いにつけ悪いにつけ問題を含みながらもネット社会は進んでいます。今回は、偶然組み合わされた「5人」が、ネットを利用して交流し、
建築を志す者同士で一つの「作品」を目指して成果を上げることを目指す、という挑戦です。(吉田研介)

注意 : 参加資格は、自分のメールアドレスをそのグループに偶然割り振られた他の4人に知らせることを認める者に限ります。 但し、他のメンバーのメールアドレスは本人の承諾なく、本コンペの作品製作以外の目的での使用を禁じます。

>> 2016 入賞作品集を見る(PDF形式/約8.8MB)


jury(審査員)

吉田 研介
Kensuke Yoshida
吉田 研介
吉田研介建築設計室
乾 久美子
Kumiko Inui
乾 久美子
乾久美子建築設計事務所
横浜国立大学大学院Y-GSA教授
吉村 靖孝
Yasutaka Yoshimura
吉村 靖孝
吉村靖孝建築設計事務所
北山 恒
Koh Kitayama
北山 恒
群設計審査 特別審査委員

architecture WORKSHOP
法政大学教授

審査員講評

今回、これまでに聞いたこともない「コンペの試み」に敢然と挑戦され作品を出されたみなさんに拍手を送りたいと思います。しかも1次審査に合格された方々は、称賛し祝意を贈ります。コンペにエントリーすることは簡単ですが、出さなくても構わないのに、完成して提出することがいかに努力とエネルギーの要ることか、そして能力が無ければできないことか、経験から十分承知しています。提出された方は自信を持ってください。とにかくおめでとう。
そこで内容。例年は模型の台がA2サイズで、その中に敷地を作り、周囲に余白が有る状態で提出されました。だから見栄えが良かった。今回は敷地のサイズがそのままパネルで、だから5軒を並べると、アレッというほどくっついて混み合って、自分の模型が栄えなかったのではないでしょうか?これが街の中の現実です。そんな時どうすればいいのか?私は「都市性」が必要だと思っています。それは「集まって住む」時の倫理観です。簡単に言えば抑えること。それがあって、次に人の為に何かすることを考える。今回、それより「やさしさ」の為の受け狙いが表に出過ぎていたように思いました。
●気になってしようがないこと、「造形の腕を磨きましょう。」

吉田 研介


「思いやりのある」戸建住宅のあり方を問うだけでなく、それを具体的に確認するために、一次の提案を主催者側で集合させ、5人のグループにして二次までに調整させるというエキサイティングな設定のコンペであった。最優秀の奥野案は家そのものを最小限にして、庭というごくあたり前のバッファーを用意するという提案で、室内面積の最大化を前提とする戸建住宅商品のあり方そのものをするどく批判していた。
さらに、庭に住民が増築することを想定することで、バッファーとしての庭と室内面積の確保の両立を時間をかけて行うことも提案しており、「思いやり」を商品として提供することのあやうさのようなものも批判的に浮かび上がらせていた。福岡案も家を最小限化するよう案だった。それにより生まれた庭をコモンズとして周辺住民に利用してもらうと同時に、独居老人に設定した住民の見守り体制もつくるというもので、おもいやりはギブアンドテイクを前提とした上で成り立つのではないかということに気づかせる提案であった。

乾 久美子


アイデアコンペや卒業設計コンクールに、「賞を決めたくないムード」が漂いはじめたのはいつの頃だろうか。十年程まえにはすでに、最優秀を決めずに審査員個人賞だけを決めた記憶がある。なかには、十数名からなる審査員団がそれぞれ個人的に金銀銅賞を出すキルコス国際デザインコンペのようなものまで現れた。学生たちの競争アレルギーは、無視できない病になっている。
しかし、建築はひとつの敷地にひとつしか建たない。その敷地における最良のデザインが提案できないなら、設計すべきでないという意味で、競争は必然でもある。今回のコンペでは、北山さんの発案で導入された群設計によって、思いもよらぬかたちで競争と協調が同時に問われることとなった。賞の撤廃では満たされなかった協調性が、審査中にも学生たちのあいだにどんどん湧き上がってくるように感じ、膝を打つ感覚があった。協調を重んじる世代が切り開く未来に、可能性を感じさせてもらった。

吉村 靖孝


 今年の3月に吉田研介さんから「住宅設計コンペ」の第10回を記念して、群設計の賞を設けたいというお話を受けました。その特別審査委員に任命していただきました。そこで、「思いやりのある戸建て住宅」という、周囲の環境に思いやりのある「利他的な住宅」の提案を求める課題としました。そんな審査を可能にするコンペのやり方を吉田さんと何度も検討を重ね、日本で、いや世界で初めてのコンペ形式を発明することになりました。コンペって競争をする場所なのですが、そこで友人をつくることになるという、新しい学生のための画期的なコンペができました。
まず、第1次審査では、提出された単体の図面だけで30作品が選ばれました。そして、第2次審査は、そのなかから任意に集められたチームによる、群設計の図面と集合した模型が用意され、審査を行いました。最優秀になった奥野さんの案は、昨年、プリツカ賞をとったアラベナの思想を想起させる、住まい手に対しても周辺環境に対しても思いやりのある提案で、私も共感しました。群設計特別賞になったBチームは、優秀賞をとった福岡さんの作品を真ん中に配置した集合形式でした。実は、福岡さんの提案する住宅は30作品のなかでも跳び抜けて「利他的な住宅」でした。だから、この住宅の利他的なキャラクターを見抜く力があって、その性能を上手に引き出したチームが賞をとることになったと思います。チームのなかに福岡さんの作品があった幸運と、この作品を評価できた他のメンバーの力で、このチームが特別賞になりました。
「思いやりのある戸建て住宅」なんてヤワなタイトルでしたが、集合させて検証してみることで建築の評価軸が全く変わってしまうという事を経験しました。福岡さんの作品は単体では賞をとるのは難しかったと思います。利他的であることを、これだけ鮮やかに評価できたことは思いがけないことでした。そういえば、資本主義の原理には「思いやり」なんてありません。フェアな競争によるマーケットメカニズムによって、動的平衡をつくるのが資本主義です。思いやりなんかして競争をしなかったりすると、システムが崩壊するのです。と、思えば、資本主義の終焉を迎えるといわれる現在、これから始まる新しい建築の状況を予感させるものであったかもしれません。

北山 恒


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